シード歯科・矯正歯科 東京では、保険診療の取り扱いを行っていない。

保険診療は質の低い治療しか出来ないから、治療費の設定が低すぎて採算が合わないから、というネガティブな理由ではない。

率直に言って、私たちの提供していきたい歯科治療が、保険診療の制度にそぐわないと感じているからだ。

海外に住まれたことがある方には、ご理解いただけると思うが、日本の保険医療制度はそのアクセスのしやすさ、提供される医療の質の高さ、治療費において、世界一素晴らしい制度だといえる(もちろん医療関係者の様々な犠牲や努力の上に成り立っていることは間違いないが)。

歯科治療においてもすぐに対処しなければならない、応急処置が必要な痛みを伴う少数歯の根の治療や、親知らずの抜歯、小さな虫歯、初期の歯周治療などはもっとも効率的で、日本の保険医療制度の本領が発揮される。

例えば、アメリカで歯科治療を受診した場合、親知らずの抜歯は$1000(約12万円)、レントゲン撮影や歯周検査など診査診断のための資料採得だけでも$500(約6万円)ほど必要となる。

私たちのクリニックは、普通の町の歯科医院では治せない、高度で専門的な歯科治療のみを行う専門外来である。

米国では、上記のような虫歯や少数の虫歯治療を主に担当する一般歯科医と私の留学した補綴科大学院のように、より難易度の高い歯科治療を行う専門医とにすみわけがなされている。また、矯正歯科、根管治療、歯周病、小児歯科、口腔外科なども専門医になるための大学院が設置されている。

専門医は、専門に特化するからこそ、専門医としての専門性、能力が発揮されるのだ。全体的なインプラントや総合的な治療が必要な患者にたいして、応急処置や1本の虫歯治療を行いながらでは、そのオペレーションにおいて効率が非常に悪いのである。

まして、日本では歯科の治療費は低く、応急処置を前提に設定されているので、さらに効率が悪い。痛みがあるといって駆け込んでくる応急処置の対応や、初期の虫歯、親知らずの抜歯をしながら、全顎的なインプラント治療をすることは本当に難しいことを理解してほしい。

実は日本でも、医科は専門外来に分かれており、町医者で異常が見つかれば、大学病院に精密検査を依頼する流れが確立されている。循環器内科や心臓カテーテル、心臓外科医は心臓移植、バイパス手術は行うが、風邪は診ない。棲み分けがなされているのである。

今回は、こうした一般歯科医と専門医との棲み分けの必要性を教えてくれたケースを紹介する。

患者さんは、40代女性。2011年にインプラントを右上奥歯に埋入し、そのあとは定期的なメンテナンスを受けることもなく、何か気になることがあるときにだけ来院し、治療をうけていた。飲食店経営者で生活は不規則、さらヘビースモーカーだった。

私が治療を担当し始めたのは、2016年10月。 その時にはすでに右上奥歯のインプラントはかなり骨吸収してきており保存不可能な状態、上顎は残存歯も不適切な根管治療がなされており、予後はそれほど見込めない状態であった。

まずは禁煙指導から始め、確実な歯磨きができるようになるまで、ブラッシング指導を行い、治療を進めていった。

具体的な診査診断の項目や治療の手順については、こちらの記事を参考してほしい。

米国の専門医が行っている診査診断、検査について その1

この方の問題点は骨格性のⅢ級、つまり少し受け口気味で、リップサポートが不足しており、さらにインプラント埋入部位の骨吸収が進み、再オペが難しいと考えられたことである。

一方、下顎は奥歯が欠損していたことで、咬合支持の確立と前歯のリップサポート、発音、アンテリアガイダンスなど、この方にふさわしい嚙み合わせをいかに付与するか、詳細にかつ入念に考察し、治療計画を立て治療を進める必要があった。

まずは上顎の歯をすべて抜歯し、それと同時に治療用の総義歯をセットした。

抜歯後、同時に総義歯をセット

右上に埋入されていたインプラント

撤去したインプラントには大量の歯石が沈着していた。

 

 

 

 

 

 

咬み合わせ、高さ、発音、審美性などの分析を進めながら、骨と歯茎の治りを待つこと6か月。その間に残っている下の歯を保存するための歯周治療を断続的に行った。

そのあと上顎は6本のインプラントを埋入し、ワンユニットに連結。下顎は奥歯にインプラントを使用し、左側は3本の連結ブリッジ。顎位は安定しており、強いかみしめや顎関節に症状なども見られなかったので、かみ合わせは犬歯誘導を採用した。

最終的に治療が終了したのは、なんと本日2022年1月20日。つまり治療終了まで5年以上も要したことになる。この方は仕事で夜遅くなり不規則な生活スタイルで、無断キャンセルで治療がままならないこともあったことを差し引いても長くかかってしまった。

今後起きうるリスクとしては、リップサポート部位をかなり前方に張り出したので、その床辺縁部の清掃性が問題になる。

もちろんインプラント部位のインプラント周囲炎のリスクもスモーカーゆえに高い。カリエスリスクそのものも高い。

できれば3か月に一度はメンテナンス、クリーニング、かみ合わせのチェックに来院が必要となるだろう。

治療費は総額で450万円程。

たしかに、これだけきくと高額に感じるかもしれないが、5年間で治療回数は月に1~2回。1回だとしても50回。

おそらくそれ以上は来院されており、加えてそれに技工の費用がかかっている。

治療の難易度、今後発生するであろうトラブルへの対応なども総合的に勘案すると、それほど生意気な治療費とは感じていないが、皆さんはどう感じただろうか。

治療費はともかく、私が言いたいのは、こうした全額的な治療を行いながら、保険診療も同時に行っていくのはかなり難しいということである。

少なくても、私にはそうした柔軟性は備わっていない。当院では再生療法や根管治療、小さな虫歯の保存修復処置でさえ各専門のドクターに任せている。

大変な思いをして治療をうけられてきた患者さんの笑顔をみるたびに、私は確信している。そうした効率的なシステムを組むことが、専門領域を横断してなされるチーム医療こそが、最も効果的な結果を得るための手段であると。