以前の投稿で抜歯後の歯槽骨の吸収を抑制するために歯槽堤保存術(ARP)という術式を紹介した。

 

今回は、そこで少し話に出したGBR(Guided Bone Regeneration: 骨誘導再生法)を紹介したい。主にインプラント治療をする上で、インプラントを支えるための骨を作る術式のことを広くGBRと呼ぶ。以前も紹介したようにインプラントの周りには具体的にはおよそ7mm程度の顎堤(顎骨の土手)の厚み幅が最低必要だが、抜歯後時間が経ってしまったあるいは炎症などで吸収して体積が減少してしまった顎堤に対し理想的な形の顎堤にすべく骨を増やしてあげる処置を広くGBRという。

図1. (a)骨欠損部の軟組織を除去しただけでは骨はできづらい(b)人工の膜で遮蔽すると骨再生が起きる (Clinical Periodontology and Implant Dentistry)

一言で骨を作る、と言ってもなぜそれが可能なのだろうか?そもそも骨欠損(歯槽骨の骨が足りない、又は無くなっている部分)の内部は軟組織で満たされている(図1 (a))。その部分を明示するために上に覆われている歯肉を剥離し、欠損部の軟組織を除去し再び何もせずに単純に歯肉を戻すと何が起きるだろうか。この歯肉剥離をした後の治癒について、①歯肉上皮細胞②歯肉結合組織細胞③骨芽細胞④歯根膜細胞の順番に欠損部へ細胞が遊走し組織の再生がはじまるとされている。(図2. Melcher 1976, Wikesjo et al. 1991)この要点としては、骨欠損内の骨再生を促そうとする時、普通に歯肉を戻したのでは基本的には歯肉由来の軟組織系の細胞が先に欠損内に入り、また軟組織で満たされてしまうか吸収する形で骨欠損がなくなることが多いのである(図1(a))。このことを回避し、骨組織を再生させるために用いられる手法がGBR(Guided Bone Regeneration: 骨誘導再生法)やGTR(Guided Tissue Regeneration: 組織誘導再生法)である。GBRとGTRの違いは、端的に言えば歯があるかないか、である。GTRは歯周組織(歯の周りを取り囲む組織)に接する骨欠損の治療法であるのに対し、GBRは歯がない顎堤(骨の土手)の骨欠損に対して骨を作ろうとする治療法である。どちらも軟組織が入らないように骨の上、かつ覆う歯肉の直下に人工膜の材料を置き、軟組織の細胞が骨欠損に入るこむのを遮蔽しようとするものである。(図1 (b))そうすることで、歯槽骨や歯根膜由来の再生能力を持つ細胞が欠損内にやってきて骨の再生を促してくれるのだ。GTRはまた別の機会で取り扱うとして、ここではインプラントのためのGBRについて述べる。基本的にGBRでは人工膜の下の骨欠損内へ、骨ができる足場としての人工骨の移植材を併用する。

図2. 歯肉剥離後の骨欠損への細胞遊走①歯肉上皮細胞②歯肉結合組織細胞③骨芽細胞④歯根膜細胞(Clinical Periodontology and Implantology)

 

利用可能な骨の量と欠損の種類に応じて、治療方針は、インプラント埋入とGBRの併用(一段階GBR法、図3)、またはGBRをして一定期間を待ってインプラント埋入(二段階GBR法、図4)に基本的に分かれる。1段階法は、水平的に骨幅が足りない欠損において、インプラントを埋入するのに十分な垂直方向の骨があり、GBRが水平方向の骨増生を目的とする場合に適応されることが多い。垂直的な骨の高さが不足する欠損では、必要な垂直的骨高さに応じて、通常、二段階GBR法が適応されうる。

図3. 一段階GBR法(当院のケース)(a)インプラント2本埋入(b)インプラント周囲の隙間に人工骨を填入(c)吸収性膜を設置(d)縫合して完全閉鎖

 

GBRは、新鮮な抜歯窩(歯を抜いた後の骨の凹み)にインプラントを埋入する際にも考慮される。このような状況では、抜歯窩の形態とインプラントの直径が一致しないことがほとんどであり、骨欠損の程度によっては、別にGBRが適応されることもある。

頬側の骨が少量失われている程度の欠損には通常、一段階GBR法が適応されるが、頬側の骨が大きく無い欠損には二段階GBR法が適応される可能性が高い。

図4. 二段階GBR法。人工骨と吸収性の膜を置き閉鎖し(A-D)、9ヶ月後顎堤の水平幅の増大が見られる(E,F) (Benic and Hammerle, Periodontology 2000, 2014 )

 

以前の歯槽堤保存術(ARP)についての投稿でも述べたが、抜歯後にインプラントを埋入する場合、抜歯からの経過時間により顎堤や軟組織の状態が異なるため、GBRのタイミングが非常に重要である。時間が経てば経つほど、抜歯窩の骨の吸収が進み、大掛かりなGBRが必要になり、多量の移植材は必要で、それに伴い術野も大きくなり、費用だけでなく、手術時間、術後の痛み腫れが出る可能性も大きくなる。抜歯される歯や周囲の骨の状態にもよるが、抜歯後はできるだけ時間を空けずにインプラントをするか、ARPや早期のGBRが肝要である。

 

文責:歯周病治療・インプラント治療担当医 呉